「殺してやりたい」から始まる
獣害の記録は、きれいごとでは書けません。開墾1年目の2016年7月、当時のぼくはこう書いています。
稲は本当によく育ってくれている
見事な分蘖をみせてくれている
にもかかわらず、鹿に1/3ほど食われた殺してやりたい
(blog 着土「鹿に荒らされた」2016年7月10日)
これが本音なんです。こっちも真剣にしていますから、無礼をはたらかれたら相応の気持ちになります。しかし相手は野生の動物。無礼も何もありません。人間の理屈なんて無関係です。
ここから、対策の1年が始まりました。ネット、夜回り、花火、案山子、竹柵、電柵、そして罠。順番に書きます。これはそのまま、失敗の順番でもあります。
獣害対策の一年
細かい対策に入る前に、獣害対策の年間の取組みを見てください。
【3月】電柵の設置・点検
野良仕事を始める前に電柵を設置。機器の動作確認(通電、バッテリー状態)。
【分蘖期(7月〜)】点検・草刈り。鹿の食害警戒が本格化
田植え後、苗高が20cmくらいになった頃から狙われます。(2016年は7/10に30%食害にあいました)
【出穂から脱穀まで】点検・草刈り。被害のピーク
2016年は8/18被害・8/28に鹿2頭猪1頭・9/6朝紫全滅。稲架干し中も狙われます。脱穀して持ち帰るまで油断大敵。
【稲刈り後〜12月】電柵の撤収・冬支度
電線を全て外し終えたら、電柵本体とバッテリーも持ち帰ります。ポールだけそのまま。12月までに終える。
7つの対策を一枚で

※効果・費用・メリデメの評価は、わが家の体験にもとづく主観です(2013〜2026年)。地域や獣の顔ぶれで変わります。
試行錯誤の対策——防獣ネットから罠まで
1. 防獣ネット。 物理柵の一つ。海苔の養殖で使われていた網を再利用した製品を使っていました。とても強靭な作りで鹿が引っかかっていたこともあります。
畔と田の間に出来ていた、獣害ネットの小さな隙間を押し広げ入った様子
しかし、そうはならないよう2重にしておいたのだけど、
片方は紐で縛っていなかったので簡単にくぐられてしまったのだろう
想像以上に器用に持ち上げてくぐるものだとわかった
(blog 着土「鹿による被害」2016年8月18日)
2. 夜回り。 食害の日から毎晩、22時すぎに田へ通いました。しばらくは鹿の姿を見なくなり、効いたように思えましたが、獣は時間帯を変えているだけでしょうし、毎日の夜回りは現実的ではなく継続は無理でした。
3. ロケット花火。 威嚇用です。ゴミになりますし、山火事も気になります。
ロケット花火でパーンと、一日数回、眠くなるまでやっても
全くの無意味、無駄金、徒労、だということがよくわかった
(blog 着土「金網か電柵を施す」2016年9月6日)
4. 案山子・鈴・点滅ライト。 3つの同時使用を試したことがあります。効果は1日目だけで、すぐに効かなくなりました。
獣害対策は色々と考えられていて、人から聞いたりもしますが、ギミック系は「すぐ慣れる。効き目があるのは最初だけ」というところに落ち着いています。
5. 竹柵。 川沿いの竹を100本ほど切り出し、2m30cmに整えて、既存ネットの外側に刺していきました。田んぼの外周を囲うとなると、時間も竹も足りず、壁は完成しませんでした。
6. 電柵。 もち米の朝紫が全滅した日に、腹が決まりました。
本気で食おうとしにきた鹿を、ネットで止めるのは無理なんだと勉強した
金網か電柵がいる
(blog 着土「朝紫 全滅」2016年9月6日)
設置する前からわかっていたことですが、電柵は万能の壁ではないということです。
電圧が下がれば効果は薄まりますし、鹿のどこに触れるかでまた効きが変わります。そして、一度抜けられてしまうと、心理柵の効果は激減します。
電柵は心理フェンス
ネットによる物理フェンスも続ける
草刈りをすることで人間界を示す
(着土「電気柵 設置完了」2016年9月27日)
2026年現在は電柵のみ使用しています。電柵の段数は6段・高さは2m弱・線の幅は基本20cm(設置場所によって変えています)
費用 当時は13万円くらいで一通り揃えたと思います。電柵本体・電線・電線ポール
オススメの機種はガラガーMBS100(ぼくが愛用している機種の後継機です)
防獣ネットは現在併用していません。
※やたらと獣に入られるようになったら、電圧低下・夜間の電池切れを疑ってください。それがバッテリー交換のサインです。
7. 罠。 狩猟免許を取得しました。罠も自作して、実際に仕掛けていました。
鹿に対して電柵はあまり効果がない
潜み場消しも効果なししかし猪は止まるのでやる価値はある。
ヌタ場にされなければ米も充分収穫できる鹿は罠で仕留めていくのがいいのだろう
(blog 森羅万象「雨後の様子見」2017年10月7日)
鹿対策には罠が有効なのですが、現在罠は仕掛けていません。コスパが悪いと判断したからです。
罠を仕掛けるには狩猟免許の取得と維持が必要です。それには時間とお金がかかります。
取得後、地元猟友会との関係性がうまれます。入会すれば組織なので活動への参加が生じます。入会しなければ良好な関係性構築の努力が必要です。
罠は自作か、購入になります。適切な場所探し、設置、日々の確認、機能維持の為の整備といった手間が増えます。
設置場所は、ただ獣道に設置すれば良いわけではありません。猟師さんのナワバリに入ってはいけません。
獲物がかかれば適切な処理が必要です。他の予定よりも優先して先に処理する必要があります。
14年目の現在は、電柵+草刈りだけです。
見回りについて
2026年現在、見回りはおこなっていません。もうかれこれ5年はしていないです。
開墾1年目の時は獣たちから洗礼を受け、作業日誌を綴ったblogには数年試行錯誤した形跡が残っています。
- 雨の日こそ見回る。 「やはりこういう日は、人間が出歩かないと知っているのだろう」(blog 着土「鹿2頭 猪1頭」2016年8月28日)
- ネットの底辺の縛りを確認する。 鹿は下から持ち上げてくぐります(blog 着土 2016年8月19日)
- 「助走をつけて跳べる場所」を探して立つ。 侵入口は道路から助走して跳べる奥の角でした。ネットの高さより、周りの地形を見ること(blog 稲作日記 2014年11月11日・前の棚田)
- 食い荒らされた直後の2〜3日が、補修の勝負。 ほとぼりが冷めた頃、こちらの疲れがたまった頃にまた来ます(blog 着土「金網か電柵を施す」2016年9月6日)
- 潜み場をなくし居心地を悪くする 「草刈りをすることで人間界を示す」(blog 着土 2016年9月27日)
ぬた場にされたら「刈るな、起こせ」?
9月、猪に田んぼをぬた場(泥浴び場)にされました。よく育っている箇所の稲が、食われもせず、ただグチャグチャに押しつぶされている。初めて見たときは、途方に暮れました。
もう無理だ。と心が折れそうになったことは何度もあります。
最初は刈り取って稲架に掛けました。長年百姓をされているおばあちゃんには「つらいだけや。やめとき。休んだほうがええ。起こしても根が潰されてるし、もう放っとき」と言われ、別のおっちゃんからは「稲、起こさなあかん。昔はそうした。」と言われる。正反対の助言の間で悩みながら、自分で試した結論がこれです。
ぬた場にされたらすぐ、いたちごっこでも良いから、
稲は起こした方が良いと今では思う。
(blog 着土「稲起こし」2016年9月25日)
倒された翌日に起こしていればもっと被害は少なく済んだろうと思う。
(blog 着土「稲起こし」2016年9月25日)
刈り取った方の稲は、どうなったか。
試しに干していた、ぬた場で潰された稲
やっぱりスカスカで全然ダメだった
勉強になった
次回からは切るのではなく、起こす
(blog 着土「稲刈り2日目」2016年10月11日)
なぜスカスカだったのか?は登熟前だったからです。イノシシは実っていようがいまいが関係なく、体のノミダニを落とすためにのたうち回ります。
倒された稲がもし水に浸いてしまっていたら、そのままだと発芽してしまいます。そうなると食べられません。その時は起こして、水につからないようにします。
ぼくの場合、起こした稲同士を穂の根元で麻紐を使って括ります。4株まとめて括ると自立します。
今同じようにのた打ち回られたら、まずは電柵のチェックをして、水が入ってこないように水路を閉じて、倒れた稲を起こします。

章末コラム: 田畑にしたのは、元・獣の住処
もち米の9割を荒らされて数日たった頃、少しずつ受け入れられるようになって、こう書いています。
それまで耕作放棄地で、畦もなくなり、カヤと笹が繁茂し、
自然に還っていた場所で、
鹿はセリを食べに、
猪はぬた場に、
そんなところを田畑にしたのだから、
獣が来ても当然
向こうにとっては例年通りの餌場だったのだろう。当たり前のことだったのだ
(blog 着土「8月の草刈り開始」2016年8月23日)
その年の暮れには、対策という言葉そのものを疑い始めていました。
獣害対策とは、
人が自然を制するものの見方だったのか。
獣害にしない対策を考える。
それは人と獣と自然との関係性の見つめ直し
(blog 着土「森林の管理」2016年12月11日)
田んぼ作りを始めたばかりの頃や、安定した収量がとれるようになるまでは、あれもこれも全てしようとしない方が良いと思います。
現在ぼくは罠を仕掛けていません。田んぼ周辺は猟師さん任せです。そもそも、獣害で困ることが減ったんです。豚熱(豚コレラ)が流行れば猪も減りますし、鹿の頭数も微減している感じです。このように毎年変わっていくものなので、今では「少しなら良いけど、全部は食べないでね」と思うようになりました。
殺気だってばかりいると心身に良くありませんし、楽しくありません。家族がいれば、家族にも迷惑がかかります。だって、イライラしていたり、ため息ばかりついてる人が居たら嫌だと思うからです。
被害ゼロを求めず、自分で決めた収量をいただければ、あとは受容するくらいの気持ちでいたいです。
次回は「種籾——いのちをつなぐ」。鹿に全滅させられた朝紫から、種籾を拾い集めた話です。
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